労働災害については、過労死・過労自殺など、痛ましい事件が数多く発生しており、訴訟に発展することも珍しくありません。今回は、民事訴訟の損害賠償請求と、安全配慮義務違反について考えてみたいと思います。
過労死・過労自殺の遺族は、会社に過失があったと考える場合は、行政訴訟(労災認定)とは別に、会社に対して民事訴訟(損害賠償請求)を起こすことができます。
労災補償制度による補償には、精神的損害(慰謝料)や逸失利益などは含まれておらず、それらも含めた全ての損害の回復を求める場合には、遺族は民事訴訟を提起するケースもあります。
労災認定の場合、遺族補償は労災保険から支払われるため、企業の負担はありません。しかし、損害賠償ではすべてが会社負担になります。
過労死・過労自殺が、被害者側に有利な流れに大きく変わるきっかけとなったのは、ある企業とその新入社員のご遺族との間に発生した裁判事例です。この判例では、最高裁は『会社側には長時間労働と健康状態の悪化を認識しながら安全配慮義務を取らなかった過失がある』としました。
そして、2000年6月に成立した和解は、
(1)
会社は遺族に謝罪するとともに、社内に再発防止策を徹底する
(2)
会社は賠償額に遅延損害金を加算した合計1億6800万円を遺族に支払う
という内容になりました。
しかし、民事訴訟(損害賠償請求)では、あくまでも「会社に過失」があったと認められる場合にのみ、裁判所から損害賠償の命令が出されます。
では「会社の過失」とはどのようなことなのでしょうか。それは「安全配慮義務違反」だと言うことができます。つまり、社員に職場を起因とする発病や死亡の危険があるにも拘わらず、その危険性を回避するための措置を会社側が怠ることです。
この安全配慮義務の内容を類型化すると、以下の4つの項目に分けられます。
1.
「物的環境を整備する義務」
2.
「人的配備を適切に行う義務」
3.
「安全教育・適切な業務指示を行う義務」
4.
「安全衛生法令を実行する義務」
(『労災保険・安全衛生のすべて』保原・山口・西村編、有斐閣、平成10年)
例えば、うつ病は、環境に左右されることが多いと言われていて、職場環境の改善によって良好となる可能性もあります。
この場合、事業主としては主治医や産業医、安全衛生スタッフの意見をベースに、就業時間の短縮や、労働内容の調整などの対策を初期の段階で積極的に実施するべきでしょう。
最近では、民事訴訟が多発する傾向にあり、裁判になれば会社が何らかの賠償をする命令が出される可能性が高いと言われています。
心身ともに社員の働きやすい環境を整える為のメンタルヘルス対策は、このように法律上でも必要不可欠なものとなってきています。 |