現状の「個人情報保護」に関する市場環境はつまり、マスメディア、市場関係者によるプロパガンダに踊らされていると言えないだろうか。
著者は実際に、戦略コンサルタントとして様々な顧客とお付き合いする中で、そのような事例を多く経験している。
例えば、明らかにバランスの悪い「個人情報保護法対応」への極端な偏重である。顧客のセキュリティ脆弱性について調査をすると、その他セキュリティ全般の対策は課題だらけにも拘わらず、個人情報保護マニュアルなどだけは突出して万全に整備されているというケースが散見される。しかもそれらのケースでは、調査を進めると明らかに、「個人情報保護法対応」が第一優先で対策されるべきエリアではないことが判明する。さらに極端なところでは、未成熟なセキュリティ環境の上で、「個人情報保護法」対応という名目でプライバシーマークだけが先行的に認証取得され、セキュリティ感性の低い社員の運用によって、実情は形骸化しているというケースも多く目に付く。
このような場合、大概は「個人情報保護法」が自社にどのような影響を与えるかについての入念な思考プロセスが欠けており、“なぜ個人情報保護法対策なのか?“という問いを繰り返すと、最後は顧客側で答えに詰まってしまうことになる。
つまり、上記のような事例は、企業における経営戦略に影響を与える投資の一環として、「個人情報保護法対応」をどのようなポジションで捉え、どのような優先順位で実装していくかについての思考プロセスが、ユーザー側において決定的に欠落しているのである。
もう、個人情報保護法対策に関する課題は何か、ご理解いただけたであろう。
まず、マスメディアによる「個人情報」漏洩事件に関する取り扱いの変化、さらにセキュリティ市場関係者(ベンダー・コンサルタント・弁護士など)による攻勢によって、「個人情報保護法対応」を中心としたプロパガンダが形成される。
それに対して、「個人情報保護法」対策を実装するユーザーにおいて、一つの投資領域として、そのポジションや優先順位、規模などについて突き詰めるという思考プロセスが欠落していることが相乗作用し、市場の過剰反応となって現れているのである。
そして、このような〔マスメディア・市場関係者によるプロパガンダ×ユーザーにおける思考プロセスの欠如〕という課題は、「個人情報保護法対応」に限ったことではない。
『セキュリティ対策』全般において言えることなのである。意味不明なファイアウォールの構築やルーティング、無闇な暗号化システムやバイオメトリクス認証システムの導入など、事例は枚挙の暇がない。
そのような実物の実例だけでなく、セキュリティポリシーを見るだけでも、思考プロセスの欠如は容易に推測できる。具体的には、思考プロセスの欠如がセキュリティポリシー上で、明らかに借り物の表記や、各条文間のロジックエラーなどに現れるからである。
これらの課題は、プロパガンダを形成している、営利団体たる市場関係者のモラルを問うべきところではないであろう。多少の行き過ぎはあるものの、プロモーション戦略としては許容される範囲と考えられるためである。CSRなども言及されつつあるが、企業はあくまで営利団体であって慈善団体ではなく、市場関係者によるこのような事業戦略上のプロパガンダに対する耐性は、ユーザー側で備えておくべき能力といえよう。
あくまでここで述べたいのは、ユーザーにおける“セキュリティリスクの経営に対する影響を適切に判断し、その課題のポジショニングを明確にして、明確な優先順位の元に実装する”という『セキュリティリスクマネジメント』の思考プロセスが欠落していることがセキュリティ対策の課題である、という現実である。
次章では、『セキュリティリスクマネジメント』の考え方について解説する。 |