特にIT業界では、認証フレームやベストプラクティス・スタンダードといったものに囚われる傾向が強く散見される。
つまり、自社自身の対策を、自社を見ることではなく、外を見ることで立案しようとしてしまうという傾向である。
セキュリティ対策で言えば、ISMSがそれに当たる。
ISMSによって提示されている対策スキームをスタンダードとして網羅的に実装すれば、情報セキュリティ対策は完了すると考えてしまうのである。
まず前提として、網羅的な対策ほど、企業において無駄な投資を招く根源であることを理解して欲しい。
シャープは液晶に事業(対策)をフォーカスすることによって、確固たるポジションを確立し、中国への工場移転が定常化する日本の製造業において、国内天理に大規模な工場を新設し、国内雇用と高品質を担保する偉業を達成している。
事業対象を絞り込んだからこそ、大規模な投資を集中し、効果をあげることができるのである。
もし液晶もプラズマも、白物も黒物も全部強化するなどと言っていたら、今のシャープは存在し得ない。
トヨタ自動車を意識しすぎる余り、車種もチャネルも網羅的に揃えることで窮地に陥った日産自動車は、保持する喜びをユーザーに与えるデザインを軸に、車種もチャネルも整理することでV字回復を成し遂げた。
企業経営においての成功は、網羅ではなく集中によって成し遂げられるのである。
念のため誤解を拝すが、集中とは、網羅俯瞰的な視点から判断し、論理的な優先順位づけによって注力するという意味である。決して偏重ではない。
話を元に戻すが、ISMS認証を導入する企業の大半は、上記、企業としての基本(もちろん、ITもセキュリティも同じ)を忘れ、広く浅くに流れてしまうことが多い。
但しこれには同情もある。認証取得を目的化した瞬間、認証を取得するには広く浅くにならざるを得ないからである。
いずれにしても、折角認証を取得したのだから忠実に守ろうというスタンスに立つと、自社の現状(情報セキュリティリスクのポジショニングと対策の優先順位)から乖離し、逆効果となる。
事例のB社は、まさにこのような状況にあった。
さらにB社では始末の悪いことに、ISO9000とISMSのダブル認証を取っており、相互矛盾と広く浅いコンセプトに囚われ、情報セキュリティが停滞していた。コンセプトと現実の狭間で身動きが取れなくなってしまったのである。
情報セキュリティの実装組織とラインとの間で利害が反発することはままあるが、B社では、情報セキュリティの実装組織の内部、つまり、認証取得の主管組織と、情報セキュリティインフラの主管組織の利害が論理矛盾から反発してしまっていた。これでは、とても効果的な情報セキュリティ対策に集中することなどできない。
ゆえに、本来自社に存在する情報セキュリティリスクを低減・軽減・回避することが目的のはずが、彼らは自社のセキュリティリスクすら明示的に把握することできず、当然、論理的な対策立案ができようはずもない。
加えて彼らは、情報子会社として設立された経緯から、御用聞き体質を根強く持っていた。
そして、ITサービスを提供する主体として、彼らは本来、自身から顧客に対して情報セキュリティ運用のコンセプトを提示し、顧客をコントロールすべき立場にあるが、まったくそれができず顧客の言いなりで統一性のないセキュリティシステムを抱えるに至っている。
自社のスタンスが破綻し、顧客の言いなりで拡散した彼らの情報セキュリティは、まったくと言っていいほどリスクマネジメントの体をなしていない。
その要因は様々だが、ISMSという認証フレームに囚われてしまったことが、自身の論理矛盾に拍車をかけてしまったことは紛れもない事実である。
この解決策は、まず、ISMSというプロモーション手段のポジションを明確にすることである。
現実的には、割り切りが必要であろう。ISMS認証は例えば官公庁への入札要件に対応するための手段であり、実質的な情報セキュリティ対策のコンセプトではないということである。
その上で、自社の情報セキュリティコンセプトを明確にし、自社の視点に立ったセキュリティリスクマネジメントの仕組みを実装することとなる。
以上、4回に渡り、小生のコラムをご拝読いただき、まことにありがとうございます。
コンサルタントとして、情報セキュリティの現場に触れるにつけ、これまで述べたような現象に必ずといっていいほど遭遇し、対策云々よりもまず、クライアントのパラダイムシフトに腐心することになります。
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