○ 第8回 2006年12月
「トップ・マネジメントによるインナーへの対応A」
○ 第7回 2006年11月
「トップ・マネジメントによるインナーへの対応@」

○ 第6回 2006年10月
「企業経営におけるインナーとアウターの関係」

○ 第5回 2006年9月
「インナーのモチベーションと企業価値への影響」

○ 第4回 2006年8月
「企業と商品が保有する無形価値A」

○ 第3回 2006年7月
「企業と商品が保有する無形価値@」

○ 第2回 2006年6月
「商品とは?」

○ 第1回 2006年5月
「企業と経済社会」

○ 作者プロフィール
 
     第5回  “インナーのモチベーションと企業価値への影響”
土屋 博之 著      

前回は、ブランドの要素としてのインナーとブランドの関連性を延べた。そのなかで、価値あるブランドを創り出すことが新規事業への参入コストの引き下げ要因となり、また、キャッシュフローの改善においても、多大な効果が期待できることを確認した。

そこで、インナーが高い“ブランド”を創り、維持していくための人間としての行動の基本を考えてみる。この分野は、古くから「行動科学」として研究されているが、私の恩師である羽路駒次 教授(現在は、近畿大学大学院 教授)からの初めての教鞭の時に、現在の私の研究基盤となっている『ヒューマン・コミュニケーション』を中心とした“マーケティング・ブランド”を教授いただき、この分野においても(他の専門として、先物市場論などがある)、国内の研究者のなかでの第一人者のひとりであると、筆者は思っている。

今回は、その時の講義内容を中心として、筆者の考えを織り交ぜながら、インナーの行動と“ブランド”との関連性を述べていく。
1.「エモーショナル・ブランディング」
@感性の時代
国内において、1970年代後半を境に“物質的な豊かさ”と“心理的な豊かさ”の価値観の逆転現象が起こり、その後もその価値観は変わらず、さらには“物質的な豊かさ”から“心理的な豊かさ”への志向性が増幅されてきている。この流れは、当然のように商品そのものにもハードからソフトという流れとして表わされている。

消費者の価値観が“心理的な豊かさ”という自己満足型の価値表現を求めている時代において、商品を提供する企業も商品の開発からマーケティングのすべての段階で「エモーショナル」の考えを取り込むことが必然になっていった。そのことは、グッドデザイン賞などにみられるように、色彩やデザインなどの感覚的要素を基本とした商品が台頭してきた。これらの商品は今までの商品との差別化として、空間の雰囲気に代表されるような要素としてのセンス(感覚)を、取り込んできた。代表的な商品としては、車、家電、携帯電話、パソコンなどであるが、それ以外にも買回品も含めたすべての商品に拡がっており、企業も「エモーショナル」の考えを抜きに、商品開発をすることはできなくなっており、消費者のパーソナリティを重点においた企業戦略が必要な時代となってきている。

A「エモーショナル」戦略
現在では業種を問わず、ほとんどの“ブランド・マネジメント”が、「エモーショナル」を考慮した戦略をとっているといえる。

「エモーショナル」という言葉を日本語に訳すと「情緒的な、感情的な」となる。これを商品の企業戦略として利用するならば、消費者の5感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)に共鳴する感性を備えた商品を社会に提供することによって、消費者に他と差別化された感覚的、感性的な情緒を持った印象を与えることで、より強い商品と消費者との一体感を創りだし、一般カストマーをロイヤル・カストマーへと変化させることができる。
2.インナー「エモーショナル」の活用
@企業内「エモーショナル」
先で述べたとおり、今までの企業戦略においては、“ブランド・マネジメント”に「エモーショナル」を活用するように、どちらかというと消費者に対する提供価値としてあくまでもアウターの視点で述べられていた。

しかし、『ヒューマン・コミュニケーション』においては、アウターと同じ情緒や感情を持っている人間であるインナーの視点でも考えるべきであり、モチベートする上でも「エモーショナル」は、重要な要素となる。それは、いいかえれば企業経営の潤滑剤ともいえる。

企業の主な性質として、第一回にて述べているように、企業は“合理原則の組織体”であり、これは経済合理性を追求しつづけていることである。インナーのリスク・マネジメントにおいて、インナーへの「エモーショナル」的な視点の必要性を考えると、定量的に表わすことは難しいが、その必要性は必ず存在している。

例として、インナーにおける「仕事のやりがい」とは給料の多少、仕事の質、対労働時間の給与コストのみではなく、「おもしろさ」「達成感」または「自分に対する必要度」または「職場での仲間意識」などが、企業内リスクの回避あるいは減少システムの原動力となりえる。また、このような「エモーション」が、ブランド価値を創り出し、さらに高めることへ貢献することは間違いない。

Aインナーの「やる気」はアウターから
インナーに「やる気」を起こさせ、継続させる起爆剤は何なのか?

それは、アウターに必要とされているという実感を得ることである。

ここでのアウターとは、顧客が一番近い存在であるが、実際にはもっと拡大させると社会全体としても定義できる。

インナーの「やる気」の大きな原動力は、顧客そして社会に必要とされているという感覚であり、「顧客つながりのエモーション」といえる。

そのことで、インナーの一人ひとりが存在意義を実感することで、さらに行動に誇りと自信を持ち、企業活動の一員としてさらなる成果を求めていく。そのなかで、自分たちの顧客の喜ぶ顔を想像することが出来るようになれば、それ自身が社内の詳細に記述された理念や行動指針などと同等以上に有効となる自らの意思決定ガイドラインへと変化していくことは確実である。

Bインナー=“ブランド”=アウター
インナーとアウターとの間の“ブランド”は、相方の思いの結晶である。
アウターにとっての”ブランド”は、機能的かつ情緒的な便益を同時に得ること。そして、それらが自分に相応しいと感じ、“ブランド”のパーソナリティに共感できることで、“ブランド”の価値を高め、ロイヤルティとして機能することになる。

そして、インナーにとっての”ブランド”は、顧客から必要かつ信頼されていることである。

それらの「エモーション」が共感することで、“ブランド”という結晶になり、インナーは動機づけされることで、企業経営の重要な財産となる。

C“ブランド”戦略とインナー・マインド
“ブランド”は、インナーとアウターの間に存在する共感の目に見えない産物である。

しかし、インナーにとっては、アウターから必要かつ信頼されていることは目に見えない。それが、不安となることで「モチベート」を継続させることが、難しくなる。それを回避する手段として、顧客から必要かつ信頼を得ているということを具現化することが必要である。そこで考えられるのは、インナーにおける「エモーション」が機能として持っている、企業にとって望ましい方向へと企業文化を進化させていく潤滑剤としての役割である。この役割によって、”ブランド”を差別化し、”ブランド”の持つパーソナリティの増大化を進めることが可能となる。

アウターとの関係性を深めることで、インナー・マインドを「モチベート」させ、さらには、インナー・マインドに直接的に働きかけることで、望ましい方向への動機づけをしていくことが可能である。

インナー・マインドを活用した、“ブランド”戦略の重要な点は、「エモーション」を利用することで、インナー一人ひとりのコミットメントにより“ブランド”を高めていくことである。そして、アウターとの共感に一貫性を持ち、継続することと同時にあらゆるコンタクトポイントを通じて働きかけを行なうことで、アウターとインナーの拡がっていく共感の範囲により、強いブランドの創造が実現可能となる。

次回は、インナーを中心とした、企業経営におけるアウターとの関係性について述べていく。
 
 


 
 
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