前回は『ヒューマン・コミュニケーション』において、“インナー”と“アウター”の関係性および関連性について述べてきた。そのなかで、企業価値を拡大させるために、トップ・マネジメントはインナーへの対応をどのようにすれば最大の効果をあげることができるのであろうかという課題を残したままである。
そこで今回と次回(最終回)において、この問題について考察していこうと思っている。しかしながら、トップ・マネジメントもインナーも人である。人であるからこそ、感情を持ち、それによって行動は変わってくるが、その行動が企業価値を拡大できる行動となるようなトップ・マネジメントの対応方法を中心に考察していく。
1. インナー・ロイヤルティ
通常のマーケティングにおいて、もっと多くの人に商品を買ってもらえないかと、ほとんどの企業は顧客を対象としている。そのことは、反面で、自社のインナーという大切かつ重要な市場が存在していることは、ほとんどの企業で忘れられている。現実に、ブランドを浸透させ、消費者に価値を提供しているのはインナーである。そのことから、社内でのマーケティングの重要性は、商品とインナーの感情を一体化させることにより価値が増加するといえる。
もし商品に対して、インナーの思い入れがなかったとすれば、広告などで消費者に伝えようとするメッセージにも十分な効果をだすことができず、場合によっては顧客へのメッセージをインナーが理解していないことで、期待とは反対の行動をしてしまうこともある。
また、ブランドの価値を信じていないとか、会社から疎外されていると感じたりすることで、逆に勤務している組織に対して敵意を持ったりすることも考えられる。
しかし、インナーがブランドに関心を持ち、その価値を信じることで、懸命に働きロイヤルティも高まる。さらには、全インナーの仕事の目的とアイデンティティを共有することで気持ちが調和し、業務効率も向上していく。
昨今では、インナーに企業戦略および、その方向性についての重要性を説明しているトップ・マネジメントは増えてはきているが、ブランドを社内で拡大する必要性を理解しているトップ・マネジメントはまだ少ない。それは、インナーは自社ブランドについては、知っていると思い込んでいるのが現状である。さらに、社内コミュニケーションを担当する人事部門などのスタッフのマーケティング・スキルが未成熟のため、社内コミュニケーションにおいても円滑に行われていないことが大きな要因となっている。
2. 社内マーケティング原則
消費者広告の原則を社内コミュニケーションに応用することは、ブランドについてインナーの理解を深めるだけでなく、ブランドに対しての思い入れも増加させることができる。
また、これを応用することで、インナーに日常業務のなかでもブランドのビジョンを実践させることが可能である。そうすることで、消費者に企業のメッセージとインナーの行動が一体化し、矛盾していないことを理解してもらえる。
ここで、いくつかの例として、企業メッセージとインナーの行動について述べる。
@タイミングを逃さない
新しいことを始める時には反発が起こって当然であり、ブランド価値やビジョンをインナーに教育するときも例外ではない。しかし、企業が新市場への挑戦や変化に直面した時は、インナーも方向性を知りたがり、ほとんどの場合新しい事柄を受け入れる。
このような機会がプラスに作用すれば新しい計画に期待が高まるが、マイナスに作用すると悲観的な感情が社内に横行する。したがって、プラスの転機は社内でブランド・キャンペーンを始める絶好のチャンスでもある。そのなかで経営陣は、会社を特別な存在にしている要素について、理解しやすく明確に表現することで、インナーのエネルギーを生産的方向に向けられる。社内のブランド・キャンペーンは、このようなチャンスを利用して勢いをつけないと、失敗することが多く、もし、チャンスに恵まれないなら、経営陣は社内でブランド・キャンペーンを立ち上げるための流れをつくりだすために、新しいマーケティング戦略に着手する必要がある。
A社内外のマーケティングとの連動
企業は、市場に発したものと同じメッセージを、インナーにも伝達する必要があるが、現状は、社内外のマーケティング・コミュニケーションが一致している企業は極めて少ない。経営陣の社内外に向けたメッセージの双方の矛盾状態は社内外の混乱のもとになるだけでなく、インナーが勤務先の誠実さを疑い非生産性に陥る可能性も高くなる。
インナーが顧客の期待に応えられるようにすることは大切であるが、企業が社内と社外向けのメッセージをすり合わせる理由はそれだけでなく、そうすることでしか達成できないような目標に、企業を駆り立てるためでもある。また、キャンペーンの実行段階において、社内外のマーケティング・キャンペーンを連動させる最も効果的な方法としては、社内マーケティングに対しても社外向けの広告の適用が有効である。この場合、社内外に発するメッセージは、内容が矛盾していてはいけないが、社外に若干メッセージを早めに発することで、インナーのインセンティブになり、それを実現しようとする努力の源となる。
3.インナーへのブランド・マインドコントロール 社内でのブランド・キャンペーンの目的は、社外向けと同じであり、そのことは、企業とインナーの間に、特別に感情的な関係を築くことにある。消費者と接する機会が少ないインナーにも、この関係を、感じてもらう意図もある。インナーがブランドのビジョンを知るのは望ましいことであり、毎日の業務での意思決定がブランドを強化しているかどうかを考えるのも望ましい。基本的には企業が消費者と築いている関係を、インナーとの間にも築くことである。インナーにメッセージを紹介し説明するために、本格的なブランド・キャンペーンを企画・実行し、ブランドを企業文化に深く浸透させ、それを後押しする。
この場合のメッセージは、インナーのタッチポイント(消費者と企業が相互にやりとりをする接点)に直接働きかけるべきであり、ここでのタッチポイントとは、仕事のやり方に影響をおよぼしている日常的な相互作用のことである。
本格的なブランド・キャンペーンは、実施のプロセスも本格的であり、消費者向けブランド・キャンペーンと同じ形式の調査から始まり、インナーがブランドの利点と信頼性を確信できるように立案・実行する。そして、この立案・実行はマーケティング部門の責任で行い、マーケティング部門のスタッフは、そのために必要とされるスキルを身につけ、消費者向けのキャンペーンの内容も理解しておく必要がある。そして、最も大切なことは、社内キャンペーンが社外のものと適合するように、独自の位置関係におくことが必要である。
どんな消費者向けのマーケティング・キャンペーンでも、市場調査を利用するのに、インナーを対象とした調査には消極的である。しかし、企業は顧客向けの調査で利用するのと同じ手法を、インナーにも活用すべきである。たとえば、フォーカス・グループ、個別インタビュー、標本調査などが活用可能である。
調査結果から企業文化のおおまかではあるが、特徴をつかみ、そこからサブカルチャーと組織内の情報の流れを理解することができる。これらを知ることで、インナーが何を考えているかがわかり、キャンペーンを最適なものに調整することが可能となる。
調査の次は、キャンペーンの計画であり、本格的なコミュニケーション戦略を練り、消費者向けのマーケティング戦略に反映させていく。しかし、キャンペーンについて考える前に、経営陣は次の重要な質問の答えを用意しておく必要がある。
★インナーは、自社のことをどう思っているか
★インナーに、自社のことをどう思ってほしいか
★インナーに、自社の理想を理解してもらうには、どうするか
★インナーは、なぜ経営陣を信じるべきなのか
以上の質問の答えが用意できたら、コミュニケーション資料の作成の準備をする。
人間はもともと身構えてしまいがちだから、それに対応するためにキャンペーンもコミュニケーション資料もインナーに受け入れられるように誠実に考え、インナーが考えていることや終日の労働を反映させ、それに報いる形で、資料は専門用語を避け、傲慢な印象を与えない。そして、企業の本質に焦点が合っていなければならない。
効果的であるためには、資料は消費者に向けたものと同じく、創造的で人目を引き見る人を驚かせ、注意を引かなければならない。これは情報の内容というより、プレゼンテーションの問題であり、退屈で眠気を誘うような資料は、すぐに捨てられてしまう。インナーにメッセージを伝達するとなると、メモ、ビデオ、見映えのいい資料などを制作して、それで事足りるとしてしまうことが多いが、経営陣がインナーと直接対話することに勝るものはない。それどころか、個人レベルでコミュニケーションができていないと、どんなに洗練され、多額の資金を注ぎ込んだ社内のブランド構築のキャンペーンであっても失敗してしまう。
ブランド・キャンペーンの最終段階では、対象者からのフィードバックを得て、さらなる参加者を募る。組織が巨大で全国に拡がっているなら、イントラネットがコミュニケーションや交流に最適の設備となる。
インナーと意見交換をするのは、ブランドを深く組織に染み込ませるための努力の一部である。大規模なブランド・キャンペーンを何度も続けるのは予算の面からも無理であり、インナーが飽きてくる。インナーが常にブランド精神に囲まれるように、日々の業務にブランドを浸透させる努力をするべきである。このようなインナーとのタッチポイントは、消費者とのタッチポイントに反映され、消費者との相互作用はすべてブランドを強化する機会となる。
さらにインナーの採用基準も、タッチポイントを具体化できる領域である。ブランドのビジョンをインナーのタッチポイントに組み込めば、やがてそれはインナーの経験に組み合わされて、本能的にブランドに沿った行動を取るようになると考えられる。
以上、今回はインナー・ロイヤルティ構築におけるブランド・キャンペーンの方法について述べた。
次回(最終回)では、インナーにおけるムーブメントによるプロセスについて述べ、さらに全体を通じた表題との関連を確認する。 |