前回と今回で、企業価値を拡大させるために、トップ・マネジメントはインナーへの対応をどのようにすれば最大の効果をあげることができるのであろうかという課題について考察している。そのなかで、前回ではトップ・マネジメントの行動が企業価値を拡大できるようなインナーへの対応方法としての、インナー・ロイヤルティ構築におけるブランド・キャンペーンの方法について述べた。
最終回となる今回においては、前回に継続して、トップによるインナーに対するリスク・マネジメントの効果としての、インナーによるムーブメントについて述べ、表題との関連性を確認し、この連載を終了する。
1. インナー・ムーブメントのプロセス
インナーへのブランド・マインドコントロールは企業ブランディングを推進する際において、注目が高まっている。前述のとおり、インナーは企業ブランドの価値形成において重要なステークホルダーであり、その個々のインナーの意思と活動のすべてがブランド価値につながるという視点においても、インナーの企業ブランドに対する理解を深め、その理解にもとづいたムーブメント化に向けての取り組みが行われている。
これらのムーブメント化の実践は、リスク・マネジメントの視点から考えると、コンプライアンスに対する自覚かつ自律的な意識の改革および醸成につながることで、インナー起因による社内リスクの発生防止にも影響を与えることが可能である。それらを考えると、プロセス策定においては、その企業の風土や文化などを考慮して進めることが絶対条件となる。
上記のことから、企業ブランドを推進するうえでの基本的なプロセスは以下の4項目に分類される。
★Endorsement(奨励):ブランドによる意識改革の土壌づくり
★Education(教育):社内意識啓発の場づくり
★Execution(実践):インナーが実際の行動に反映させるための環境づくり
★Evaluation(評価):正当な評価・報奨の場づくり
このなかで、奨励と教育は個々のインナーに対して、ブランドを意識づけ、理解させるためのプロセスであり、実践と評価はインナーが日常活動のなかで、ブランドにもとづいた考え方での行動と、それを継続させるための企業体質づくりであると位置づけている。
また、この4項目のプロセス活動事例を、次にあげていく。
@ブランドによる意識改革の土壌づくり
個々のインナーに対する意識改革および醸成に重要なことは、経営トップ自身が企業ブランドに対するコメントを具体的に明示することである。一般的には経営トップが社内方針を発表するというかたちであるが、より効果的にするには、インナー一人ひとりに経営トップがman-to-manで語りかけることである。具体的には、インナー全員の前でイベント形式でのプレゼンテーションや、すべてのインナーに手紙を配信することなどが考えられる。また、こういった単発だけでなく、経営トップが直接インナーに対してダイレクトな語り合いの場として、重要性を語ることでコミュニケーションを強化するために、経営トップとの「タウンミーティング」の実施も有効である。
もうひとつは、経営トップの意思を継続的にインナーにリマインドさせるため、考え方を本にまとめ、すべてのインナーに配布することも効果的な施策となる。さらには、社内刊行物だけでなく、一般社会に向けて出版することで、社会的にも企業の方針や姿勢が明確になり、社外評価の社内へのフィードバックによる相乗効果も期待できる。
A社内意識啓発の場づくり
経営トップによる理念、ビジョンが打ち出された後は、それをすべてのインナーへ意識化させることが、ブランドに対する理解を浸透させていくための啓発の場づくりであり、そのための研修や教育へ出席できる機会づくりと、そのなかで活用するツールの開発が必要である。
それらの研修や教育においては、ブランドの意識化と理解の浸透を目的として、すべてのインナーがブランドをつくっていくという自覚をもたせ、そのうえで必要不可欠となる行動姿勢を明確にさせることが重要である。研修や教育のスタイルは、企業の事情に応じて多様であるが、重要なことは研修成果を上司が把握し、日常業務へ早く反映できる環境をつくることである。
研修や教育において、ブランドに対する理解浸透を共有および共通化する意味で活用される代表的なツールとして、次があげられる。
a.ブランド・ブック
企業のブランドを理解するうえで基本となる要件が網羅された刊行物であり、以下の構成要素をもって、当該企業ブランドのバイブル的な役割を果たしている。
⇒ブランドとは何か
⇒ブランドはなぜ大切か
⇒ブランドの歴史・資産
⇒ブランドにとってのステークホルダー(利害関係者)とブランド・タッチポイント
⇒これからの顧客像と社会の情報環境
⇒ブランドにとって重要なお客様像
⇒ブランド戦略の概要
⇒事業展開のなかでのブランド戦略の実現
⇒ブランドを育てるためにやらなければならないこと、やってはいけないこと
b.ブランド・ビデオ
ブランド・ブックの構成要素を映像で表現することで、当該ブランドが具体的に理解することが可能となり、研修や社内イベントの冒頭などでインナーにみせることで、直感かつ感覚的にブランドの目指す方向性やビジョンの理解を深められる。
c.ブランド・カード
ブランド価値の創造に向けて期待される行動や姿勢などを簡潔かつ明瞭に、携帯可能な名刺大などのカードに記入して配布し、インナーが日常業務のなかで機会あるごとに確認することが可能となる。
d.ブランド・ネット
企業内イントラネットにより、ブランドの基本情報にアクセスし、具体的な活動成果などに関して情報交換が可能となることで、グローバル企業などは遠隔地のインナーに対してブランドの求心力の形成かつ継続化に有効である。
Bインナーが実際の行動に反映させるための環境づくり
ブランドの理解浸透から、具体的な活動にブランドを組み入れていくためのプロセスであり、インナーそれぞれが属している部門の基本方針や計画にブランドを反映させ、具体的な目標設定を行っていくことが基本であるが、前述ツールのブランド・カードやブランド・ネットを活用することで、インナーの行動化の施策や取り組みが行われている。たとえば、ブランド・カードを配るだけでなく、そこから、インナー個々人が日常業務のなかで具体的に顧客や関係するステークホルダーに対して何をコミットするのか、何を実現するのかを書き入れることで、行動の自立を促すような施策などがある。また、企業全体や各部門でブランディングを実践するためのスローガンを設定し、日常のなかでリマインドさせるようにポスターとして一番目に触れやすい場所に掲示している例もある。そして、個人単位、チーム単位を問わず、ブランディングを実践している具体的なケースを紹介することにより、継続的な共有化や蓄積を図るためのツールとして社内報という定期的な社内向け刊行物を位置づけることは、全社のブランディング推進において重要となる。
C正当な評価・報奨の場づくり
継続的なブランディングの推進を実現するサイクルをつくるために、ブランドに見合った成果を正当に評価するプロセスも重要である。基本的には、具体的な人事評価への反映であるが、インナー・ムーブメントの観点においては、表彰制度などによる全社への発表の機会の設定も必要である。
このように、企業は常に新製品の開発とコスト削減の圧力にさらされているので、社内マーケティングの重要性が見すごされてしまうのは現実である。結局、財務状態が圧迫されれば、外部マーケティングは重要だという事実が広く知られていても、その予算は削られてしまう。しかし、インナーが自社に愛着を感じなくなったら、企業はブランドを維持することはできず、結果的に最後に会社へ引導を渡すのもインナーである。これは、ビジネスの真理であり、インナーに自社を思う気持ちが芽生えるかどうかは、その企業が永続するのかどうかと同じである。
2. おわりに〜表題とリスクの関連性
今回で連載が終了となるが、表題とリスクの関連性を、ここで私なりに明確にしておきたい。
皆さんもご存知のとおり、現代の企業は企業の存続を危うくさせる巨大、そして数々のリスクに囲まれている。昨今のように企業を取り巻く環境が大きく変化する時代には、リスクを正しく認識し、いかに対処するかが重要である。そのためには適格なシステムが必要であり、それはインナーが関わっていることから、インナーの役割が企業の存続に決定的な影響を与え、かつ社会全体にも拡大していく可能性がある。
それらのことから、連載の表題である『企業価値は、インナー・リスクマネジメントによって拡大する!!』の中心的存在である、インナー(社内従業員)の有効かつ重要性が、これからの企業経営では、さらに必要不可欠になると確信している。
最後に、この連載を八ヶ月間も付き合っていただき、ありがとうございました。読み苦しい点が多くあったことを、心よりお詫び申し上げます。また、どこかでお会いした時にでも声を掛けていただければ幸いです。 |