第1回 電子メール利用のメリットとリスク
はじめに
現代において電子メールは企業活動を支える必要不可欠なコミュニケーションツールであるが、コンピュータウィルスへの感染、情報漏洩、迷惑メールなどのトラブルも多発している。他方、電子メールが相次ぐ企業不祥事の実態を明らかにしていることも認識しておくべきであろう。ライブドア事件では東京地検の強制捜査において100台以上のパソコンが押収され、データセンターにあるサーバーが調査され、確認された電子メールが容疑を固める重要な決め手となった。日興コーディアルグループの不正会計事件においても、特別調査委員会の調査報告書によれば、退任役員の電子メールやデータ復元ソフトで復元された電子メールを含め延べ約50万7千通の電子メールが取得・検証されたことにより明らかにされた事実があるという。一部のメールが消えていたことについては事件の鍵を握るものではないかとメディア報道等において取り沙汰されている。
このように、電子メールは企業活動を支えるツールであると同時に、様々なトラブルのリスクを孕み、企業不祥事や訴訟が発生した場合には、重要な証拠として注目されるものとなる。そこで、リスクマネジメントの観点から電子メールを適切に管理することが必要とされるところであるが、電子メールの利用に関して明確なルールを定めている会社は必ずしも多くない。電子メールにかかわる法整備が進められ、金融商品取引法(いわゆる日本版SOX法)などにより内部統制の構築・運用が求められる中、会社は明確なポリシーをもって電子メールを運用・管理することが必要とされていると思われる。そこで、第1回にあたる今回は、会社における電子メールの利用にかかわるメリットとリスクについて検討し、第2回では「会社における電子メール管理」について、そして第3回では「訴訟における証拠としての電子メール」について考察してみることとする。

1.電子メール利用のメリット
(1) 社内における利用
電子メールは時間や距離に左右されることなく利用できる連絡ツールであり、社内においては報告、連絡、相談といったいわゆる「報・連・相」を行うためのツールとして利用される。また、社内において伝達すべき情報の一斉配信や有用な情報の交換・共有化など、社内における情報のナレッジマネジメントに役立つツールとしても利用されている。
(2) 社外との関係における利用
電子メールは社外との関係においても広告・宣伝、営業活動、情報の収集・分析など、様々な事業活動に利用されている。
@広告・宣伝における利用
広告・宣伝に電子メールを利用する企業が増えている。電子メールによる広告は、新聞広告やテレビCMなどと比較して格段に低いコストで行えるということが理由として挙げられる。また、嗜好やニーズを登録している顧客に対しては、その顧客の嗜好やニーズにあった情報を提供することで、より効果的な宣伝活動が行われている(いわゆる「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」や「データベース・マーケティング」)。
A顧客や取引先との連絡ツールとしての利用
顧客や取引先への連絡に電話ではなく電子メールが多く利用されている。電子メールを利用することのメリットは、連絡した内容が記録として残ることにある。
顧客や取引先と打ち合わせを行った際には、打ち合わせの内容を電子メールにまとめて相手方に送信することにより、議事録を作成するのと同様の効果が得られ、後日に「言った、言わない」のトラブルが生じるリスクを低減することができる。特に、自社に有利な条件が提示された場合には、その内容を電子メールにして送信しておくとよい。相手方からその内容を否定するようなメールが返ってこなければ、相手方が合意していることが確認できるし、自社に有利な証拠として残すことができる。さらに、CCで関連部署や上司に対して送信することにより、社内報告も併せて行うことができ、業務の効率化が図れるのみならず、連絡内容が誤っていないか、権限外の行為が行われていないかなどについて社内のチェックも可能となる。
また、顧客や取引先との連絡に電子メールを利用することにより、営業時間に左右されることなく24時間顧客等からの相談や問い合わせを受け付けることができ、顧客等のニーズにタイムリーに対応することが可能となる。さらに、相談や問い合わせの内容をデータとして蓄積することができ、社内において情報の共有化を図ることができる。
B法律上の正式な書面としての利用
2001年に「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」(IT書面一括法)が施行され、顧客等の承諾を条件に、従来は法律により書面で交付することが義務付けられていたものを電子メールやホームページなどの電子的手段を使って交付することが認められるようになった。この法律により約50のいわゆる業法も改正され、また、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」(電子消費者契約法)や「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)などの法律も整備され、現在、多くの取引を電子メールで有効に行うことが可能になっている。
C情報収集のためのツールおよび情報分析の基礎資料
顧客等との連絡を電子メールで行うことにより収集される有用な情報をデータとして蓄積できることも会社にとって大きなメリットである。顧客等から取得・収集した様々な情報をデータとして蓄積し分析することにより、顧客等のニーズや市場の動向を知ることができ、新規商品やサービスの開発、新規事業立上の検討材料としても活用できるなど、電子メールによって得られるデジタル化されている情報は、紙媒体により入手されるデータと比較して、整理・分析し易く、会社にとってまさに「宝の山」となりうる。

2.電子メールの利用に伴うリスク
電子メールの利用にはこうしたメリットがある一方、様々なリスクを孕むものでもある。会社における電子メールの中心的利用である、@広告・宣伝における利用、およびA顧客や取引先との連絡ツールとしての利用に伴うリスクの例としては、次のようなものが挙げられる。
(1) 広告・宣伝における利用に伴う注意点・リスク
電子メールを広告・宣伝に利用する場合、配信方法や表示などに関して、「特定商取引に関する法律」(特商法)や「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」(特定電子メール送信適正化法)の規制を受ける。また、電子メールの内容に関しては、著作権法や「不当表示及び不当景品等に関する法律」(景品表示法)などを遵守することも必要とされる。
(2) 顧客や取引先との連絡ツールとしての利用に伴う注意点・リスク
@未達・未読のリスク
電子メールを送信しても、送信先のシステム上の問題やインターネット上の障害により送達されなかったり遅延したりすることがある。受信者側のメールボックスが整理されていないために受信されない場合、あるいは文字化けして見読できない電子メールが送信されてしまう場合もある。このような場合、送信者が送信後の確認作業を怠ると相手方にきちんと送達されていないことに気づかないまま放置されてしまうことがある。他方、迅速に対応すべき電子メールが送達されているにもかかわらず、メールボックスの確認を定期的に行っていないために未読のまま放置したり、あるいは、うっかり見落としたり、誤って削除してしまったりということもある。迷惑メールの受信拒否設定がされてない場合には、大量の迷惑メールを受信することによりサーバーの容量に悪影響を及ぼすうえ、メールボックスの整理に時間を要するなどにより業務効率が低下し、未読の電子メールを生じさせうる。
電子メールの未達や未読は、業務を停滞させるに留まらず、顧客や取引先からの信用低下や取引機会の逸失を招くことになりかねない。ひいては、損害賠償請求事件に発展することも想定される。
A不適切な内容のリスク
電子メールを顧客や取引先との連絡ツールとして利用する場合、表現が不適切であったり、内容に誤りがあったりした場合、あるいは電子メールの作成者が権限外の事項に関して社内の承認を得ずに相手方と約束・合意してしまったような場合、顧客や取引先との信用関係が悪化したり、トラブルが生じたりする危険がある。
Bコンピュータウィルスのリスク
コンピュータウィルスの感染のほとんどは電子メールによる感染である。これまでは愉快犯がほとんどであったが、最近は、アダルトサイトなどの広告をパソコン画面に勝手に表示するアドウェアや、パソコン内の個人情報やパスワード入力履歴を第三者に送信するスパイウェア、ファイル交換ソフトを悪用してパソコン内の情報をネット上に公開してしまう暴露ウィルスなど、営利犯罪型ウィルスが急増している。コンピュータウィルスは円滑な業務運営を阻害するだけでなく、情報漏洩にも繋がるものであり、莫大な損害を発生させる危険がある。自社のコンピュータがウィルスに感染した場合、顧客や取引先にコンピュータウィルスを送信して二次的損害を発生させてしまうことがあるが、適切なウィルス対策を実施していなかったような場合には、損害賠償請求されることもある。
C私用メールを発生させるリスク
顧客や取引先との連絡ツールとして電子メールを利用することを社内で許可すれば、それに付随して、社員は私用にも電子メールを利用することができる機会を与えられることになってしまう。社員が大量の私用メールを受送信したり、個人的なメールマガジンを大量に受信したりすることにより、業務効率が低下するだけでなく、メールサーバーの容量にも悪影響を及ぼす。また、私用メールはセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなどのモラルハザード、情報漏洩、インサイダー取引などの手段ともなりうるものである。
D情報漏洩のリスク
電子メールによる情報漏洩にはいくつかの要因が考えられるが、大きく分けると、電子メールの仕組みによるものと人的なものとに分けることができる。
仕組み上の問題としては、電子メールは複数のネットワークやサービスを経由して送られるため、途中で情報が傍受される可能性がある。特に、駅や空港などの無料LANスポットやインターネットカフェなどの公共のスペースで電子メールの読み書きを行う場合、傍受されたり、盗み見されたりする可能性が高くなる。
人的要因としては、過失によるものと故意によるものとがあるが、電子メールの利用方法についての理解不足や操作ミスを原因とする宛先記載ミスによる情報漏洩事故が少なくない。CCやBCCの使い方を知らないと、顧客や取引先への同報メール送信によって一度に大量のメールアドレスが外部に漏洩されてしまう。会社の事業活動状況によっては「個人情報の保護に関する法律」(個人情報保護法)の規制を受けている場合も多く、会社として損害賠償義務を負うことにもなりかねない。また、この送信を受けた者が入手したメールアドレス宛てに配信元を装った偽メールを送り、フィッシングサイトへ誘導して個人情報を入力させるという事件に発展したケースもある。何気なく送信した電子メールや社外のメーリングリストに誤って送信した電子メールから、新規開発商品に関する情報や顧客や取引先に関する情報などの企業秘密が漏洩してしまうこともある。
こうした情報の漏洩は、顧客や取引先との間において取引関係を悪化させたり債務不履行や不法行為に基づく巨額の損害賠償請求を発生させたりするのみならず、社会的信用を失墜させ、消費者離れや不買運動などによる業務上の実損害や株価への悪影響を発生させる原因ともなりうる。
★今後の予定
第2回「会社における電子メール管理」
(1)電子メールのコンプライアンス管理
(2)電子メール管理とレコードマネジメント
(3)電子メールにかかわる規程等の作成
(4)教育の必要性
第3回「訴訟における証拠としての電子メール」(まとめ)
(1)訴訟における証拠としての活用
(2)電子メールの保存に伴うリスク
(3)まとめ
以上毎月1回 残り2回お届けします。
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