第3回(最終回) 「訴訟における証拠としての電子メール〜まとめ」
会社における電子メール管理のあり方を検討する場合、コンプライアンスやレコードマネジメントの観点からの検討に加えて、訴訟における証拠としての活用という観点からの検討も必要とされる。
1.訴訟における証拠としての活用
現行の民事訴訟法では原則としてあらゆるものが証拠能力をもつ。特に、デジタルデータに電子署名がなされれば、電子署名法第3条により署名・押印のある紙媒体の文書と同等の価値が認められることにもなる。従って、独占禁止法違反、セクシャルハラスメント、名誉毀損などの様々な訴訟において電子メールは決定的な証拠となりうる。
訴訟における証拠という観点からみた場合、会社としては次の2つのことを念頭において電子メール管理を行うことが必要となる。
1つは、訴訟時における自社に有利な証拠としての電子メールの活用である。
電子メールは訴訟において文書と同等の価値を有するものであるが、一般的にこのことについての認識が薄いことから、会社が電子メールをきちんと管理していないような場合、電子メールの作成者は、通常であれば文書に残さないような内容まで電子メールに書いてしまうということがままある。
電子メールの、内容によって自社に有利に働くものもあれば不利に働くものもあり、会社が証拠として裁判所に提出する電子メールは当然のことながら自社にとって有利な内容のものであるが、だからといって自社に有利なもののみを保存し、不利なものは削除してしまうことがよいという訳ではない。電子メールは送信者と受信者の両方に記録が残るため、相手方も自社との間でやり取りした電子メールを保存している可能性があり、自社にとって不利な内容の電子メールを証拠として提出してくる可能性があるが、すべての電子メールを残しておかないと、どのような内容の電子メールが証拠として相手方から提出されうるのか見当がつかなくなってしまう。
従って、訴訟における自社に有利な証拠としての活用という観点から電子メール管理を考えた場合には、できればすべての電子メールを保存し、相手方との間で過去にどのようなやり取りがされたのかを把握できるようにしておくことが望ましい。
もう1つは、文書提出命令(民事訴訟第223条)に対する備えである(電子メールが出力印字されている場合は文書提出命令の対象となるが、出力印字されていない場合には検証物提出命令による場合がある)。民事訴訟法の文書特定手続き(第221条)では、申立人において文書の表示または文書の趣旨を明らかにすることが著しく困難であるときは、文書の所持者がその申立にかかる文書を識別することができる事項を明らかにすれば足りるとされている。
会社や個人は、所持する文書について原則として提出義務があり(第220条4号)、文書提出命令に従わないとき、または、相手方の使用を妨げる目的で提出義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたときは、裁判所は当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができるとされている(第224条)。
従って、裁判所から電子メールについて提出命令が出された場合、会社が対象となる電子メールを保存しておらず提出することができないと、会社にとって不利に働く可能性があるので注意を要する。
2.電子メールの保存に伴うリスク
訴訟における証拠としての活用という観点からみた場合、また、内部統制の観点からみても、すべての電子メールを保存しておくことには意義がある。
しかしながら、電子メールは企業活動の実態をすべて明らかにするものであることから、すべての電子メールを保存することには漏洩のリスクが伴う。それゆえ、その保存には万全なセキュリティ対策が必要とされるが、それにかかる費用も相当な金額になることが想定される。実際、過去の一定期間の電子メールをすべて保存するシステムを構築するために数億円を投じている会社もある。
電子メールの保存に関して、「何を」、「いつまで」、「どのように」保存するかについて会社がそのポリシーを決定する際には、かかる点からの分析・評価を欠くことができないものと思われる。

3.まとめ
以上のように、ビジネスに電子メールを利用するにあたっては、リスクマネジメントの観点から、自社のポリシーに基づいた運用・管理を行うための体制を構築したうえで利用することが必要とされるところ、どのようなポリシーに基づいた管理をすべきかは一様ではなく、自社の事業状況に応じて判断することが求められる。
情報を収集・利用できるかどうかの情報格差は企業格差とも言われる中、電子メール管理の適否が自社の将来をも左右しうるものであるという認識をもって電子メール管理に取り組む必要がある。
以上全3回終了
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